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null「今、ここにいる私は偽物なのよ、弥生《やよい》さん」  彼女は、高校二年生の弥生に不思議なことばかり言っていた。 「どういうこと?」 「ほんとうの私は、遥か昔に死んでいる。世界そのものに抗《あらが》おうとした悪事の報いを受けて、 ね」  彼女はにっこりと微笑む。その笑い方はとても優しく、穏やかで、話している内容の突飛 さとは全然不似合いのようで、その実、とても調和していた。その微笑みの印象は確かにそ ういうものだった。だがその顔は、その声は——どんなだったか……。 「それは——前世とかそういうこと?」 「いいえ。そんなロマンチックなものじゃないわ。もっと身も蓋《ふた》もない、そう——大量に取 られたコピーの中に、一枚余計なものが混じっていた——みたいなところかしら?」 「……?」 「私は本来、運命の失敗作として世界の闇に消えているはずだった可能性。でもそれが出来 損ないの、遠い過去のコピー作業の中で紛れてまた出てきてしまった——」  彼女は楽しそうにくすくすと笑う。 「本来なら、コピーされたのは、ただの上っ面の、私という人間の情報だけだったはずなの にね——精神の波長というのかしら?なまじコピーの再現性が高かったので、私という余 計な因子まで甦《よみがえ》ってしまった」